企業がワーケーション制度を導入する際の労務リスクと「就業規則」のテンプレート

中小企業の経営者様、人事担当者様。ワーケーション(Work + Vacation)制度は、従業員の満足度向上やリフレッシュによる生産性向上に繋がるとして注目されています。しかし、通常のテレワーク以上に「労働時間」と「プライベート時間」の区別が曖昧になりやすく、労務リスクが非常に高い制度でもあります。 この記事では、企業がワーケーションを導入する際に必ず把握すべき労務リスクと、そのリスクを回避し、法令遵守を確実にするための「就業規則」のテンプレート項目を専門的な基準から解説します。クラウド勤怠管理の活用や旅費の取り扱いといった費用対効果の高い運用戦略もお伝えします。

ワーケーション制度が抱える3大労務リスク

ワーケーションを成功させるには、以下の3つの労務リスクへの対策が必須です。

  • リスク1:残業時間 管理の曖昧化: 休暇地で「いつからいつまでが労働時間か」の線引きが難しく、隠れ残業やサービス残業を発生させやすい。
  • リスク2:旅費・費用の負担: 労働時間中の交通費や宿泊費を会社が負担すべきか、どこまでが業務でどこからが私的利用か判断が難しい。
  • リスク3:労働災害(労災)のリスク: 慣れない場所での休憩中や移動中の事故が、労災として認められるかの判断基準が通常のテレワークよりも複雑になる。

これらのリスクを放置すると、労働基準法違反や高額なコスト発生に繋がります。

ワーケーション導入時の「就業規則」テンプレート必須項目

就業規則または「ワーケーション規程」に以下の項目を明記し、法令遵守と労使間の合意を確実に得ることが、リスク回避の鍵です。

1. 労働時間の管理と申請に関する規定

  • ✅ 労働時間の特定: 原則、所定労働時間(例:9:00~18:00)以外は労働時間としないこと。例外的に時間外労働が発生する場合は、事前申請を必須とする。
  • ✅ 勤怠記録の義務: クラウド勤怠管理システム(スマホ、PCなど)を用いて、始業・終業時刻をリアルタイムで正確に打刻することを義務付ける。
  • ✅ 中抜け・休憩の取り扱い: 観光や移動のための中抜け時間は、労働時間から除外することを明確に規定する。

2. 費用の取り扱いに関する規定(コスト負担)

  • ✅ 基本旅費の原則: 個人的な事情による滞在であるため、宿泊費や交通費は原則として従業員負担とすること。
  • ✅ 例外的な費用負担: 会社の命令による出張を伴う場合のみ、通常の出張規程に基づいて旅費を精算する。私的利用との明確な区別を明記。
  • ✅ 通信費: 通常のテレワーク手当に含まれるか、別途支給する場合はその上限を定める。

3. 労働災害(労災)とセキュリティに関する規定

  • ✅ 労働災害の定義: 業務遂行中に発生したものに限定し、観光や私的移動中の事故は労災対象外とすることを明確にする。
  • ✅ セキュリティ確保: カフェや公共Wi-Fiなど、情報漏洩リスクの高い環境での機密情報取り扱いを原則禁止とする。VPN接続の利用を義務付ける。

リスクを回避するデジタルツール戦略

ワーケーションにおける最大の労務リスクである残業時間 管理の曖昧さを解消するには、クラウド勤怠管理SaaSの活用が不可欠です。

  • GPS打刻機能の活用: ワーケーション先の居場所を特定する(プライバシーに配慮しつつ)ことで、代理解決や不正打刻のリスクを低減し、客観的な勤務記録を確保する。
  • アラート機能: 所定労働時間を超えそうになった際に本人と管理者にアラートを出し、残業の事前申請を徹底する。
  • コスト削減効果: クラウド勤怠管理の導入は、高額な残業代の不当な発生を防ぎ、費用対効果の高い労務リスク対策となります。

まとめ:ワーケーションは「規程」でリスクをコントロールする

ワーケーション制度の導入は、従業員満足度を高める一方で、残業時間 管理や労災といった労務リスクを増大させます。

これらのリスクは、「就業規則」に労働時間の定義、旅費の負担ルール、セキュリティ義務を明確に規定し、クラウド勤怠管理を徹底することで、確実にコントロール可能です。法令遵守を前提とした制度設計を行い、生産性向上に繋げてください。